ラチュレはもともとは神南にあったDECOTというジビエを専門にしたフレンチだったらしいのですが、青山に場所を変え、リニューアルしてオープンしたフレンチです。
ジビエを得意としていてコース料理のほとんどにジビエを織り交ぜています。
ジビエ(鹿・熊・キジ・鴨などの野禽類)を得意とするシェフは多数いまして、フレンチ業界の中では「ジビエを扱えてこそ一流のシェフ」という潮流があると思います。
実際にフランスの星付きレストランでも、特にグランメゾンではグランドメニューには必ずジビエを用意し、かつ、それが一番力の入った一品だということも少なくありません。
では、ジビエが得意だとするフレンチとジビエを専門とするフレンチではどのような違いがありますでしょうか?
ジビエはいってみれば”最後の見せ場”としてひときわ光を放つものなのですが、専門としてしまうと見せ場が分散してしまい”どこが見せ場なの?”とお客に疑問を持たれてしまう可能性があります。
ラチュレは後述しますがいろいろと思い悩み、葛藤がある中で一つの結論を出し、自信をもってその難題に取り組んでいるお店です。
お店は渋谷駅から徒歩10分ほどの場所にあって青山学院大学のとなりです。近隣にはラブランシュやドンチッチョなどの有名店が並びます。
青山通りから横道に入り3分程度でお店に着きます。立地は大変に便利でフレンチとしては申し分ありません。
扉を開けるとメートルが出迎えてくれます。前日まではなじみのお客のみのプレオープンだったらしく、なんと僕が一番目のお客らしいです。
店内はジビエを専門とするには意外なほどかわいらしく、いわゆる女子好きのするフレンチのようです。
テーブルセッティングもシンプルです。変わった形の木のオブジェがありますがこれがバターナイフです。見た目は斬新ですがはっきり言ってこれは使いづらい・・・。
簡単な説明のあと、料理です。いただいたのは7800円のディナーコース。
アミューズの一皿目はおそらくスぺシャリテだと思いますが、鹿の血をつかったマカロンです。
おそらくカカオと合わせて仕上げていますが鹿の血の血なまぐささを極力おさえて、かつ鹿らしさを殺さずに絶妙のバランスに仕上がっています。
シェフは自ら猟にでかけ、命の大切さをわかってほしいと力説していました。
「肉や血は利用されるけど、皮は利用されていないのでなんとか表現したかった」との説明通り、鹿皮の上にマカロンを添えています。
二皿目のアミューズがキノコと熊のベーコンのパート。
プレゼンテーションが凝っていてブックカバーの中に藁を敷き詰めてその上にマカロンを添えています。
ここまでで技術や想像力はとびぬけたものを感じます。
ジビエを本当の意味で素材を生かすとなるとどうしてもくろうと好みの味になってしまい、レストランとして成立しなくなってしまいます。ではジビエらしさを少なくして華やかに仕上げていればいいのかというとそういうわけではありません。
それじゃあ普通の牛とか豚を使って仕上げればいいじゃんということになってしまいます。これがジビエを専門とするお店の難しさなのです。
特にフレンチには、お客はかわいらしさや華やかさなどの「わくわく感」を求める傾向が強いのでジビエを素材の味むき出しで提供すると引かれてしまいます。
そこに葛藤と一つの結論を感じるアミューズでした。
前菜の一皿目はキジのコンソメにキノコを付け合わせたもの。
キジはしとめたものをフザンタージュ(熟成)させてからだしを取るそうです。
実際に味わってみるとキジのだしがこれでもかと言わんばかり濃くて少し乾燥するとゼラチン質が固まってしまうほどの濃密さです。
その濃密なコンソメに森のキノコを合わせています。写真の通り量は少なめですが、逆にこの濃密さで量が多いと疲れてしまうのでこの量が適正でしょう。
前菜の二皿目は熊や鹿のテリーヌ。一般的なパテドカンパーニュのような外見ですが、パテカンのようなレバーの風味はありません。
レバーの風味がない代わりに後味にジビエ特有の血の匂いが残ります。
食べた瞬間は風味を殺しすぎじゃないかと思いましたが、アフターフレイバーでジビエらしさを十分に感じることができました。
付け合わせはプルーンをマディラワインに漬け込んだものがひとつ。これがまたテリーヌによく合います。
びっくりしたのが次の一皿。なんとアジのマリネと桃の前菜でした。
セオリーで行けばジビエのテリーヌの後にアジのマリネは出せません。通常は軽めの皿から重めの皿を提供するはずだからです。
シェフ曰く、ジビエを専門にしたコースだと疲れてしまい、途中でさっぱりとした料理をはさみたかったとのことです。
実際に味わってみると表現はへんですがグラニテのような役回りをしてコース全体のアクセントになっています。もちろん前菜としていただいても完成度は高いです。
魚料理は鮎のパイ包み焼き。運ばれる前からパイのいい香りが感じられました。
これは技術が完璧。
鮎の風味もパイのバターの香りもそのコンビネーションも文句のつけようがありません。
ブールブランソースもきちんと酸味がきいていてパイのバター風味とバッティングしないようになっています。にくい一皿。
メインディッシュは鹿肉のロースト。これも完成度が高く意気込みを感じます。
鹿肉は肉厚にカットしますが、血なまぐささをだしながらも「こりゃあダメだ」というラインの直前で仕上げています。
赤ワインソースが絶妙で肉単体で食べるのとソースをつけて食べるので違う味わいが楽しめます。
左上のラインを書いているのがナスのピューレですが、これはクミンの香り(カレーの芳香性分のひとつ)をつけています。
このピューレがジビエくささを緩和させています。
肉だけで7~8カットに切って食べることになりますが、3口めからやや疲れてしまうところをナスのピューレで最後までおいしくいただけます。
付け合わせの野菜まで緻密に考えられていて、無駄な食材が一つもありません。
鹿肉のメインディッシュとしては一つの完成形といえると思います。
デザートはチョコレートのミルフィーユ仕立。
マタギ茶といって、狩猟を終えてまたぎが肉を木にさして火をおこして焼くのですが、そのさした木を煎じてお茶にしたものがマタギ茶というらしいです。
デザートは専任の女性パティシエ―ルがいます。
これはまだオープン後のあわただしい中に申し上げるのは大変に酷だということを前提でいうと、まだ葛藤と迷いが一皿に出ている印象でした。
ミルフィーユは、ナイフを縦に入れて食べるのですが、温度管理が冷たすぎて上から下に縦にナイフを入れると形が崩れてしまいます。
また、お皿の冷えが強いため一番下のガトーが本来提供する温度よりも冷たすぎて風味がやや緩和されています。
ふつうの人であればマタギ茶をイメージできる人はいないでしょう。僕も同じでした。
そのため物珍しさで食べる分にはいいのですが、提供の手法としてまずはマタギ茶をわかってもらったうえで「こういう風味をデザートに生かしました」という粘り強い説明も必要かもしれません。
このままだと「珍しいねえ」と思ってくれるお客もいますが、しかしガストロノミックを知ったお客は判断力がありますのでこうはいきません。
そもそもマタギ茶を知らないのでそれをいきなり出されてももとがわからないので判断の余地がないとおもう可能性があります。
パンも秀逸↓
新規オープンのパティシエ―ルを務めるのは大変な重圧とストレスだと思います。
いろいろなお客がいろいろな意見を無責任にお店にぶつけるでしょうから右往左往することもあると思いますが、アイデアやセンスは抜群なので日を追うごとに完成度をあげてくると思います。
コーヒーもおいしく、最後まで満足しました。
本オープンの一番目のお客ということでお店全体から緊張が伝わってきますし、「これから始まるんだ」という高揚感を感じました。
お店の側からすれば不安が大きいとは思うのですが、お客の立場からいえばすでに完成度は相当高いレベルにあって、何一つ心配する点はないように思います。
接客は電話対応から始まって最後まで気配りも技術もそつなく、お客と何とかしてコミュニケーションをとろうという意気込みを感じます。
今日いただいたワインはお任せでグラスのサンテミリオンでしたが熟成も進みメルローらしいやわらかいくちあたりとこなれたタンニンがジビエによく合ってました。
デザートに関しては辛口を申し上げましたがこれは単純に経験値の問題で技術もアイデアもセンスを感じますので日を追うごとにレベルを切り上げていくと思います。ちなみに今の段階でも並のフレンチでは十分に通用するレベルです。
↓熊の脂のミニャルディーズ
シェフは何度も「命の大切さをわかってもらいたい」と言っていました。
料理人は動物の命を奪ってそれをお客に提供するのですが、さすがに提供する段階(レストランのテーブル上)ではなまなましさを出すことはできません。
シェフは時間を見つけて自ら狩猟し、肉を熟成させ、それを一皿に仕上げますので机上の空論でない命のあり方を最初から最後まで知っている方だと思います。その現実をしっているからこそジビエ料理にこだわっているのかもしれません。
できればそのあたりの予備知識をもって楽しむと味わいがいっそう深く、おいしくなるフレンチです。
おそらく早い段階でミシュランに掲載されると思うし、席数が少ないので話題になるとあっというまに予約が取れなくなるので今のうちに来店されるのをお勧めします。
ジャンル:フレンチ
住所:東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山ルカビル B1F
電話番号:03-6450-5297
営業時間:11:30~14:00(L.O)
18:00~21:00(L.O)定休日:日曜、(祝日)
*データは変更になる可能性がありますので事前にご確認ください